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消費者ニーズは萎えたのか? シャープペンの事例 [マーケティング]

最近のマーケティングの教科書やセミナー,ビジネス雑誌などでよく言われること(書かれていること)。それは「多くの商品で市場が成熟化し」「消費者が欲しいと思う商品がなくなってきている」ではないでしょうか。それだけに,そんな「成熟市場」でブレイクスルーした商品は,ビジネス雑誌で注目されます。例えば,

【プレジデント:年間300万本! 三菱鉛筆「技ありシャーペン」開発秘話】
  http://www.president.co.jp/pre/backnumber/2009/20090629/11228/300/

文具業界という成熟市場。さらに、少子化という厳しい環境で、三菱鉛筆は、なぜヒット商品を生み出せたのか。「機械屋さん」と「マーケッター」の妥協なき商品開発の現場をレポートする。

この記事では「ニーズが萎える」という表現を使っていますが,なるほど文具業界(この記事ではシャープペンシル)は成熟市場であり,そこで300万本を売るとはすごいことでしょう。

しかし私が注目したのは「消費者ニーズが本当に萎えているのか」という点。私はこれはウソだと思います。ユーザーイノベーションの研究をしていると,どんな商品にも満たされない消費者ニーズが,依然として溢れかえっていると確信します。

一般的に「消費者ニーズが萎えている」と言われている現象は,メーカーに都合のよいニーズが萎えているだけのことなのです。つまりメーカーが満足するだけの市場規模をもったニーズを発見することが難しいのであり,決して消費者自身が何が欲しいのかわからなくなっているという状態ではないのです。

例えば事例のシャープペン。さすがに最近は使うことが減りましたが,それでも私はこの商品に対して満たされていないニーズが山のようにあります。例えばキャップについている消しゴム。消しにくいことに加えて,すり減っても補充ができない。万年筆にもボールペンにもない,シャープペンの大きなアドバンテージは「文字を消せること」だと私は思っています。それなのに,消しゴムがすぐになくなってしまうのは大きな不満です。わざわざ別に消しゴムを内ポケットにはいれませんし。

このニーズに対して,もちろんメーカーは「換え消しゴム」を販売しています。例えばパイロット社から出ている商品は5個入りで105円です。ただ高性能なシャープペンならよいですが,出先でちょっと使うシャープペンは100円も出せば買える時代です。つまり替え消しゴムの値段で新しい商品が買えてしまうわけです(環境問題がどうとかいう突っ込みはなしで)。

それにシャープペンシルの消しゴム問題は,私の生活の中では重要度は高くありません(当たり前ですが)。あるとき出先でペンを使っていて,「あっ消しゴムがすり減っていた」と気づいて困るのですが,だからといって「帰ったらすぐに補充しないと」手帳にメモするわけでもありません。とっさのときにどうやって問題を解決すればよいのか。これが私のシャープペンに対する不満であり,ニーズの一つです。

さてメーカーはこのニーズを解決することができるでしょうか。おそらく解決は可能でしょうがあえて取り組む必要性を感じない,というのが正しい答えなのではないでしょうか。コンビニなど替え消しゴムの販売チャネルを増やしたり,補充機能を装備した商品の開発も可能なのでしょうが,それはメーカーが満足するだけの市場規模,もっと言えば売り上げと利益が期待できないので実現されないわけです。

しかしこれは「ニーズが萎えている」わけではなく,メーカーの都合で「ニーズを見極めている」だけなのです。これは極めて大きな違いです。メーカーやマーケティング研究家は消費者のニーズが多様化してきたと,20年近く前から言い続けてきました。それは事実でしょう。ところがメーカーのモノ作りのシステム,評価のしくみ,モノの考え方は20年間ずっとある程度の規模を前提とするものであり続けました。ニーズに本当に応えようとするなら,仕組みそのものも変化させなくてはならないはずなのに。


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