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東京ヴェルディが身売り [ビジネス一般]

久々の更新です。

現在J2に所属するプロサッカーチーム 東京ベルディが経営権を大手学習塾に売却するというニュースが出ています。

【毎日新聞: 東京V身売りへ 学習塾に再建託す!】
http://mainichi.jp/enta/sports/soccer/news/20090119spn00m050006000c.html

東京ヴェルディといえば,名門読売サッカークラブを前身とし,キングカズこと三浦知良をはじめとした日本代表を多数輩出してきた名門クラブです。その人気と実力からJリーグのオープニングマッチにも選ばれ,Jリーグバブルの頃はベルディ戦を観戦することは,有名アーティストのコンサートのチケットを取るぐらい困難な状況でした。

しかしJリーグバブルの崩壊と軌を一にするように,同クラブの人気も低迷。有力選手が次々に引退や移籍でチームを去っていき,実力も低下しました。ただ,Jリーグバブルの崩壊は,すべてのチームに等しく襲いかかった「環境変化」ですが,その中で突出してヴェルディの低迷度合いが高かったのはなぜでしょう。

大きな要因の1つが,Jリーグの基本理念である「地域密着戦略」をないがしろにしてきたことではないかと考えます。現在は東京を本拠地としているヴェルディですが,Jリーグ設立当初は川崎市等々力陸上競技場をホームとしていました。ところが前述のような人気沸騰に対して等々力競技場が手狭であったことから,Jリーグ開幕初年度で東京への移転を画策します。


「Jリーグ」のマネジメント―「百年構想」の「制度設計」はいかにして創造されたか

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  • 作者: 広瀬 一郎
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この移転騒動は色々な思惑が絡んで頓挫するのですが(詳しくはWikiediaあたりを),その後ヴェルディは人気チームとの試合については,国立競技場での開催を強行していきます。その結果,地元川崎市民からの支持をだんだん失い,等々力競技場において客席数増工事が終了したにも関わらず,逆に観客動員数は低下していくことになりました。

2001年に念願の東京移転を果たしますが,同じく東京に本拠地でも地元密着を続けてきたFC東京や,一時期同じ本拠地であった川崎フロンターレと比べて,観客動員力,チーム成績ともに差をつけられ,ついにはJ2に陥落してしまいました。目先の売上に目を奪われ,長期的な戦略を見失ったヴェルディという「企業」の,ある意味当然の結末かもしれません。

これと正反対な戦略で,現在のところ成功を収めているチームが先日,テレビ東京系「カンブリア宮殿」で紹介されていました。大分トリニータです。

【カンブリア宮殿 地域密着で大都市のビッククラブに立ち向かえ! ~キャリア官僚を捨てた名物社長の挑戦~】
http://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/list/list20081229.html

大分は関東や関西のように商圏人口が大きくありません(番組の中では,浦和レッズの3300万人に対して,大分は70万人)。その商圏特性にあった,身の丈サイズの経営戦略でこのチームは,ビッククラブを打ち負かし,昨年度ヤマザキナビスコカップで優勝を飾りました。観客動員数もJリーグでは5番目を記録しています。

詳しくはまた機会があればお話したいのですが,大分トリニータの事例は経営の神髄は与えられた(もしくは置かれた)環境に,いかに自分たちを適合させるかである,ということを教えてくれているように思います。大分に本拠を置いた時点で,70万人のお客さんしかいないということは「しかたのないこと」な訳です。その少なさを嘆いても,それはどうすることもできません。交通の不便なところにスタジアムがある。これも「しかたのないこと」です。凡人は「便利なところに新しくスタジアムを建てればよいではないか」と,無責任に言いますが,お金がない以上「どうしようもない」ことなのです。

経営者にとって大切なことは,この「どうしようもないこと」を嘆くことではなく,どうすればこの「どうしようもない」状況に自分たちを合わせていけるか,ということです。

ただそのとき,彼らがヴェルディのように「大きな市場に出て行く」という選択肢を選んでいたら,果たして成功できたのでしょうか。何の後ろ盾も,資金的な余裕もないなか,単に市場が大きいからというだけで東京(あるいは九州だと福岡)に進出しても,勝てる保証はありません。むしろ競争が激しい分,さらに厳しい戦いが待っています。

よく学生にも例え話として言うのですが,人気の釣りスポットは確かに魚が沢山います。しかしそこには沢山の釣り人が訪れ,ベストポジションを朝早くからキープし,最先端の釣道具と優れたスキルで魚を奪い合います。そこに昨日今日,釣りを始めた人がひょっこりいって連れるものではありません。さらに言えば,魚たちも人慣れし,なかなかエサに食いついてはくれません。

一方,近所の小さな池には魚はほとんど住んではいません。ただその分,釣りに来る人はわずかで,ゆっくりと釣りをすることができます。果たしてどちらの方がより多くの果実を得ることができるのでしょう。

私たちはついつい,市場の大きさに目を奪われて,安易にそちらに行こうとしてしまいます。しかし例えば経営資源に劣る中小企業が,頑強な大企業と同じ方向,同じ方法を目指したとしたら…。使い古されたポジショニング別経営戦略ですが,今でも十分深い示唆を与えてくれています。

確かに景気の影響は大きいでしょう。しかし不振に喘ぐ企業は,本当にそれ「だけ」なのでしょうか。


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