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価値づくり経営の論理 [読書の杜]


価値づくり経営の論理―日本製造業の生きる道

価値づくり経営の論理―日本製造業の生きる道

  • 作者: 延岡 健太郎
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2011/09/21
  • メディア: 単行本



私の師匠の師匠である田村正紀先生は,数年前の日本商業学会の懇親会においてこんなスピーチをされたことがあります。
「これからは学問,学会の世界でもM&Aが激しくなる」

複数の学問領域が共同で新しい知を創造する「学際」という言葉がありますが,田村先生のスピーチはこれをさらにもっと刺激的に表現されたものでした。そしてこの後,
「日本商業学会は飲み込む方か,飲み込まれる方か」
とこれまた刺激的な発言。乾杯前だったので,ほとんどの人は覚えていないのかもしれませんが,少なくとも私には記憶に残る言葉でした。

前置きが長くなりましたが,この本はまさにそれを象徴するような一冊ではないでしょうか。

著者はイノベーション研究で世界的にも著名な延岡先生。代表作である『マルチプロジェクト戦略』をみてもわかるように,もの作りに関する研究が得意分野で,組織学会という組織論や戦略論,イノベーションなどの研究家が集う学会で活躍されています。

その延岡先生が,先ほどの田村先生の言葉を借りればマーケティングの分野に「M&A」をしかけたのがこの『価値づくり経営の論理』ではないかと思います。

品質のよい商品を作りながら,一方で利益を出すことができない日本の製造業。この問題に対して,価値づくりという視点が日本の製造業には欠けている(正しくいうと失われてきた)と指摘。それを解決するための提言がなされています。

ただ,主張されていることの多くはマーケティング研究者からすると特段目新しいものではありません。おそらくマーケティング研究者が指摘するなら,日本の製造業はマーケティングがへたくそだ,という結論になるのかもしれませんし,実際に幾人かのマーケティング研究者(日本商業学会会員)からは,「こんなのマーケティングでは十年以上も前に終わった話でしょ」という批判も聞かれました。

しかし私はこの批判は2つの点で問題ありと考えます。

1つ目は,かりにそうだとして,マーケティング研究者は日本の製造業の不振に対して,どのような提言ができてきたのだろうかということ。もう1つは,なぜ同じように組織論やイノベーションの分野に,マーケティング分野が攻め込んでいかなかったのかということ。

10年前のマーケティング研究の知見でも,他の分野では新しい視点として受け入れられるのであれば,それはそれで積極的に「M&A」に乗り出すべき。市場を拡大すれば,それだけ自分たちの研究も知られることになり,それがまた新しい研究を生み出すからです。

これ以外にも,近年は戦略論やイノベーション研究からマーケティング分野への侵攻が増えてきています。このままただ批判しているだけならば,マーケティング分野は田村先生が指摘された他分野の餌食になって消えてしまうことにもなりかねません。




マルチプロジェクト戦略―ポストリーンの製品開発マネジメント

マルチプロジェクト戦略―ポストリーンの製品開発マネジメント

  • 作者: 延岡 健太郎
  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 1996/11
  • メディア: 単行本



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小売りイノベーションの源泉 [読書の杜]

どんな人でも,繰り返し読んだ本というのは少ないのでないでしょうか。逆に言えば,2回以上読む本はその人にとって大切な役割を果たしていると言えるかもしれません。

私は本を読むのがある意味仕事なので,あえて5回以上読んだ本を一つの基準にしたいと思うのですが,それでも5冊ほどあります。そんな中でももっとも繰り返し読んだ本が,法政大学の矢作敏行先生の『小売りイノベーションの源泉』(日本経済新聞社)です。

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おそらく絶版になっているので,アマゾンでも古本しか入手することはできません。


小売りイノベーションの源泉―経営交流と流通近代化

小売りイノベーションの源泉―経営交流と流通近代化

  • 作者: 矢作 敏行
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
  • 発売日: 1997/09
  • メディア: 単行本



私の博士論文は,まさにこの本との「戦い」でした。博士論文では,同業他社の間でしばしば行われている情報公開という行動についての研究で,事例として関西スーパーという小売企業を取り上げていました。

研究をはじめた当初,この本の存在をまったく知りませんでした。関西スーパーに関する新聞記事や,他の研究者の事例研究などをもとに,同社の事例研究を独自に始めたのですが,その途中の文献レビューをしていく過程の中で,この本の存在を知ったのです。

初めてこの本を読んだとき,私は絶望の淵にたたき込まれたような感覚を覚えました。私がやっていることを,10年近く前に,それも私よりもさらに広範囲かつ深いレベルで研究している人がいたのです。こりゃあテーマを変えなければダメだなとまで思いました。しかしここでテーマ変更を決断してしまうと,博士論文作成はまた振り出しに戻ってしまう。そうなると道は2つ。博士課程の在籍期間を延ばすか,矢作研究が指摘していないことを探し出すかのどちらかです。

私は後者を選択。そこからこの本との戦いが始まったわけです。繰り返し繰り返しインタビューを続け,矢作研究が指摘していないような事実を探るプロセスに必死に取り組みました。

幸いなことに,私には小川進という素晴らしい師匠がいました。師匠のナビゲーションのおかげで,なんとか矢作敏行という巨人の肩の上に,小さな塵ひとつ積み重ねることができた(と思いたい)のです。

博士論文のストーリーがほぼ完成したあと,師匠の計らいで矢作先生の前でプレゼンテーションをさせていただくという素晴らしい機会を得ました。これ以外にも,日本を代表する研究者の方々の前で何回も発表する機会があったのですが,矢作先生の前での発表は別格でした。あこがれでもあり,研究者としての仮想敵でもある人の前での研究報告は,たぶん一生忘れることのできない経験でした。

発表の後,矢作先生から示唆に富んだコメントと,そしてわずかながらのお褒めの言葉をいただくことができました。そのときは緊張のあまりほとんど反応できなかったのですが,帰りの新幹線で号泣したことを今でも鮮明に覚えています。

そんな思い出の本。今でも研究室の二番目によい場所に飾ってあります(もちろん一番よい場所には・・・)。




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世界一わかりやすい英文法の授業 [読書の杜]

毎週木曜日には、自分が読んでみて面白い本を紹介させていただこうかと思います。

第1回目は関正生著『世界一わかりやすい英文法の授業』です。


世界一わかりやすい英文法の授業

世界一わかりやすい英文法の授業

  • 作者: 関 正生
  • 出版社/メーカー: 中経出版
  • 発売日: 2008/02
  • メディア: 単行本



いわゆる受験参考書の類なのですが,アマゾンのレビューをみてもわかるように,じつは受験生ではなく私たち「大人」にとって興味深い本かもしれません。丸暗記になりがちな英文法の勉強を,感覚的に理解できるように導いてくれます。

たとえば私たちが受験生の頃一生懸命覚えた「進行形にできない動詞」。これを筆者は「5秒ごとに中断・再開できるものは進行形にできる」「それができなものは進行形にできない」とあっさりと解説します。だから同じhaveであっても,

I have two brothers. (兄弟の関係を5秒ごとに中断できないですよね。だから進行形にできない)
He is having dinner.(晩ご飯は5秒ごとに中断することは可能。だから進行形にできる)

と説明します。

受験対策としては不十分なところもあるのでしょうが,一度そのような期間を通過し,改め英文法ってなんだっけと振り返る世代には,目から鱗,なるほどねと思ってしまう話がふんだんにあります。「wouldは妄想中のサイン」というフレーズに笑ってしまいました。

ビジネス書や小説以外にも,このような参考書の類を読んでみるのも面白いかもしれません。教養の幅が広がるかも。



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