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小売りイノベーションの源泉 [読書の杜]

どんな人でも,繰り返し読んだ本というのは少ないのでないでしょうか。逆に言えば,2回以上読む本はその人にとって大切な役割を果たしていると言えるかもしれません。

私は本を読むのがある意味仕事なので,あえて5回以上読んだ本を一つの基準にしたいと思うのですが,それでも5冊ほどあります。そんな中でももっとも繰り返し読んだ本が,法政大学の矢作敏行先生の『小売りイノベーションの源泉』(日本経済新聞社)です。

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おそらく絶版になっているので,アマゾンでも古本しか入手することはできません。


小売りイノベーションの源泉―経営交流と流通近代化

小売りイノベーションの源泉―経営交流と流通近代化

  • 作者: 矢作 敏行
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
  • 発売日: 1997/09
  • メディア: 単行本



私の博士論文は,まさにこの本との「戦い」でした。博士論文では,同業他社の間でしばしば行われている情報公開という行動についての研究で,事例として関西スーパーという小売企業を取り上げていました。

研究をはじめた当初,この本の存在をまったく知りませんでした。関西スーパーに関する新聞記事や,他の研究者の事例研究などをもとに,同社の事例研究を独自に始めたのですが,その途中の文献レビューをしていく過程の中で,この本の存在を知ったのです。

初めてこの本を読んだとき,私は絶望の淵にたたき込まれたような感覚を覚えました。私がやっていることを,10年近く前に,それも私よりもさらに広範囲かつ深いレベルで研究している人がいたのです。こりゃあテーマを変えなければダメだなとまで思いました。しかしここでテーマ変更を決断してしまうと,博士論文作成はまた振り出しに戻ってしまう。そうなると道は2つ。博士課程の在籍期間を延ばすか,矢作研究が指摘していないことを探し出すかのどちらかです。

私は後者を選択。そこからこの本との戦いが始まったわけです。繰り返し繰り返しインタビューを続け,矢作研究が指摘していないような事実を探るプロセスに必死に取り組みました。

幸いなことに,私には小川進という素晴らしい師匠がいました。師匠のナビゲーションのおかげで,なんとか矢作敏行という巨人の肩の上に,小さな塵ひとつ積み重ねることができた(と思いたい)のです。

博士論文のストーリーがほぼ完成したあと,師匠の計らいで矢作先生の前でプレゼンテーションをさせていただくという素晴らしい機会を得ました。これ以外にも,日本を代表する研究者の方々の前で何回も発表する機会があったのですが,矢作先生の前での発表は別格でした。あこがれでもあり,研究者としての仮想敵でもある人の前での研究報告は,たぶん一生忘れることのできない経験でした。

発表の後,矢作先生から示唆に富んだコメントと,そしてわずかながらのお褒めの言葉をいただくことができました。そのときは緊張のあまりほとんど反応できなかったのですが,帰りの新幹線で号泣したことを今でも鮮明に覚えています。

そんな思い出の本。今でも研究室の二番目によい場所に飾ってあります(もちろん一番よい場所には・・・)。




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