トヨタ歴史的赤字決算 数の魔力 [ビジネス一般]
わずか1年前には,世界ナンバーワンの自動車メーカーとなったトヨタが一転,大きな赤字に転落です。08年3月には約2兆2700億円の営業黒字を記録していたのに,09年3月決算では約4600億円の赤字です。一体トヨタに何が起きたのでしょうか。
【毎日新聞<トヨタ>歴史的赤字決算 急拡大が裏目に 販売急落の打撃増幅】
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090509-00000014-maiall-bus_all
毎日新聞をはじめ,多くの新聞は「世界的金融危機による販売不振」と「円高」であると分析をしています。しかしそれは正しい分析なのでしょうか。
以前よりこのブログでも指摘していますが,私は「三河企業」として慎重の上にも慎重な経営を続けてきたトヨタですら「数」の魔力には勝てず,自爆の道を歩んだのではないかと考えています。
バブル崩壊の教訓や,アメリカ型経営手法の広まりにより,日本企業はかつての「売上高重視」から「利益重視」へと経営目標の転換を図ってきました。無理をシェア拡大に血道を上げるよりも,きちんと利益を取っていく経営が正しいという価値観が確実に広がっていたはずです。
しかし一方で,企業経営者は売上高や生産量ナンバーワンという言葉の魔力には,なかなか抗しきれない性質を持った生き物でもあります。これは世の中の評価もよくないのかもしれませんが,同じ10億円の利益であれば,売上高1千億円の企業の方が,100億円の企業よりも上であるという評価がされてしまうことが少なくありません。
それが遠いあこがれであり,永遠に抜くことなどできないと思われたライバルの勢いが急減速し,ひょっとしたら勝てるかもしれない…。そんな状況が目の前にやってきたら,トヨタといえどもその誘惑に勝てなかったでしょうか。
そうとしか思えないほど,ここ数年のトヨタの“膨張”は異常でした。記事にもありますが,北米への過度な依存と,それも販売の9割がローンという信じられないような強引な販売方法は,まさに日本経済がバブル経済期に経験した,借金で身の丈以上の土地を買いまくった失敗の繰り返しです。販売台数世界ナンバーワンという称号を得ることだけが目的化し,そのためにはまさになりふり構わない経営の当然の末路が,今回の赤字への転落であるというのは言い過ぎでしょうか。
しかしこれだけローンが焦げ付いているということは,悪名高きサブプライムローン問題と同様に,購入者への所得審査がいい加減であったということとしか考えられず,世界不況の影響では片付けることのできない,深刻な経営の失敗であると言わざるを得ないでしょう。
加えて,私たち預金者が得るべき利息を犠牲にして続けられた長期間にわたる金融緩和政策は,円安をもたらしました。記事にもあるように,その円安はトヨタの好業績・世界制覇を支える大きな要因にもなったわけですが,明らかにこれは「イレギュラー」な状態であり,決してトヨタの「地力」ではありません。要するに先に挙げた「世界的不況による販売不振」と「円高」は,トヨタ不振の本当の意味での理由ではなく,アメリカ経済同様,トヨタもバブルがはじけたにすぎないわけです。
繰り返しますが,あの慎重なトヨタですら陥る「数の魔力」。よく机上の空論と批判される経営学ですが,イケイケどんどんの時にこそ冷静に,理論的に考えることが経営には必要です。
かの萬田銀次郎(わかる人にはわかるでしょうが)はこのような名言を残しています。
魔物は天界に棲んでまんのや
そしてトヨタ生産方式の父とも言える大野耐一氏が残した素晴らしい本を紹介します。サブタイトルが今のトヨタに対する痛烈な叱咤激励かもしれません。
【毎日新聞<トヨタ>歴史的赤字決算 急拡大が裏目に 販売急落の打撃増幅】
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090509-00000014-maiall-bus_all
毎日新聞をはじめ,多くの新聞は「世界的金融危機による販売不振」と「円高」であると分析をしています。しかしそれは正しい分析なのでしょうか。
以前よりこのブログでも指摘していますが,私は「三河企業」として慎重の上にも慎重な経営を続けてきたトヨタですら「数」の魔力には勝てず,自爆の道を歩んだのではないかと考えています。
バブル崩壊の教訓や,アメリカ型経営手法の広まりにより,日本企業はかつての「売上高重視」から「利益重視」へと経営目標の転換を図ってきました。無理をシェア拡大に血道を上げるよりも,きちんと利益を取っていく経営が正しいという価値観が確実に広がっていたはずです。
しかし一方で,企業経営者は売上高や生産量ナンバーワンという言葉の魔力には,なかなか抗しきれない性質を持った生き物でもあります。これは世の中の評価もよくないのかもしれませんが,同じ10億円の利益であれば,売上高1千億円の企業の方が,100億円の企業よりも上であるという評価がされてしまうことが少なくありません。
それが遠いあこがれであり,永遠に抜くことなどできないと思われたライバルの勢いが急減速し,ひょっとしたら勝てるかもしれない…。そんな状況が目の前にやってきたら,トヨタといえどもその誘惑に勝てなかったでしょうか。
そうとしか思えないほど,ここ数年のトヨタの“膨張”は異常でした。記事にもありますが,北米への過度な依存と,それも販売の9割がローンという信じられないような強引な販売方法は,まさに日本経済がバブル経済期に経験した,借金で身の丈以上の土地を買いまくった失敗の繰り返しです。販売台数世界ナンバーワンという称号を得ることだけが目的化し,そのためにはまさになりふり構わない経営の当然の末路が,今回の赤字への転落であるというのは言い過ぎでしょうか。
しかしこれだけローンが焦げ付いているということは,悪名高きサブプライムローン問題と同様に,購入者への所得審査がいい加減であったということとしか考えられず,世界不況の影響では片付けることのできない,深刻な経営の失敗であると言わざるを得ないでしょう。
加えて,私たち預金者が得るべき利息を犠牲にして続けられた長期間にわたる金融緩和政策は,円安をもたらしました。記事にもあるように,その円安はトヨタの好業績・世界制覇を支える大きな要因にもなったわけですが,明らかにこれは「イレギュラー」な状態であり,決してトヨタの「地力」ではありません。要するに先に挙げた「世界的不況による販売不振」と「円高」は,トヨタ不振の本当の意味での理由ではなく,アメリカ経済同様,トヨタもバブルがはじけたにすぎないわけです。
繰り返しますが,あの慎重なトヨタですら陥る「数の魔力」。よく机上の空論と批判される経営学ですが,イケイケどんどんの時にこそ冷静に,理論的に考えることが経営には必要です。
かの萬田銀次郎(わかる人にはわかるでしょうが)はこのような名言を残しています。
魔物は天界に棲んでまんのや
そしてトヨタ生産方式の父とも言える大野耐一氏が残した素晴らしい本を紹介します。サブタイトルが今のトヨタに対する痛烈な叱咤激励かもしれません。
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