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プロの仕事と報酬 [ビジネス一般]

非常に考えさせられるニュースが読売新聞のネット版に掲載されています。

【読売新聞 残留孤児と弁護団、訴訟費で対立】http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080709-OYT1T00449.htm?from=top

中国残留孤児問題に関する集団訴訟で,その費用負担を巡って元原告と弁護団が対立しているという問題です。

全国15地裁で国を相手に争われたこの裁判は,原告の経済状況も考慮し,勝訴によって賠償金や和解金を得ることができれば弁護士費用を原告が支払うという契約になっていたそうです。
しかし裁判は神戸訴訟を除いて原告が敗訴。その結果,弁護士は報酬を受け取ることができませんでした。

ところが,この裁判をうけて国は独自に支援策をあらたにまとめたことで話がややこしくなりました。弁護士側としては,これは事実上の和解なのだから,これまで要したコストの一部負担を求めてきました。これに対して原告側は,裁判そのものは敗訴なのだから,契約どおり報酬は支払わないということを主張しています。

さらに話をややこしくしているのが,唯一の勝訴であった神戸訴訟の弁護団が,「生活苦にあえぐ孤児から報酬はもらえない」ということで,報酬の大幅なディスカウントをしました。その結果,国の新支援策を和解と見なしたとしても,勝訴している神戸訴訟の弁護費用以上を支払うことはおかしいのではないかという批判が,原告からも出てきたわけです。

確かに膨大な費用を負担しているわけですから,弁護団の言い分もわかります。しかし契約問題として考えると原告の言い分が理にかなっているように思います。「事実上」どうであれ,契約書としてそうなっていたのであれば,その文面に従うのが契約というものでしょう。

ただ私が問題だと感じたのは,報酬をディスカウントした神戸の弁護団です。このようなことを言うと血も涙もないのか,と批判を受けそうですが,プロの仕事をした以上,最初に約した報酬はきちんと受け取るべきではないでしょうか。

原告となった方々の生活が厳しいことは,すでに裁判の前からわかっていたことです。もしディスカウントするのであれば契約の段階からそうすべきで,仕事が完了した以上は,特別な落ち度がない限り安易なディスカウントをすべきではないと考えます。

このような話は,とくに日本では美談として扱われます。しかしよく考えて欲しいのですが,誰かが何かを免除されるということは,それを他の誰かに負担させているということです。それでいいのでしょうか。例えば今回の場合,弁護士が負担したことになるわけですが,こうした負担が続くとこのような「おいしくない」裁判を担当してくれる人がいなくなります。社会的には大きな損失です。

こうした話をすると,「弁護士は儲けているのだから」「弁護士は公的な部分がある」という反論をする人がしばしば現れます。しかし公的であろうがなんであろうが,人間は「義」ではメシは食えません。自分が「義」で生きるのはよいですが,それを他人に押しつけたり,それが長期的に社会にとって悪影響を及ぼすようであってはいけません。半年かかって家を建てた大工さんは,いくら施主さんの家計が苦しいからといって支払いをディスカウントするでしょうか。また工賃をまけてくれない大工さんを,あなたはひどい人だと思うでしょうか。

がんばった人にはきちんと「約束した」報酬を支払い,それを遠慮なく受け取る。それはプロの仕事である以上は,どんな職種でも曲げてはいけない原則だと思います。

繰り返しますが,ディスカウントしたければ契約前に。

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コメント 2

Jim

その通りです。他人に負担を強いておきながら、自分たちは果実を甘受する。許されません。
それに利益を否定すると結局は滅びるだけだから。
by Jim (2008-07-10 00:07) 

ドクター

Jimさん,コメントありがとうございます。

日本人は社会貢献=無償と捉えている面が少なからずあるように感じます。例えばボランティアといえば日本では無償ですが、海外ではちゃんと報酬をもらうケースが少なくありません。ボランティアとは自発的に社会に貢献することであり,それに要した最低限の費用は支払われるべきと考えているからでしょう。
by ドクター (2008-07-10 08:23) 

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